冥王代生命学の創成
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A06班: 冥王代生命学の創成公募班

冥王代における高分子濃度シナリオの検証
(藤原 慶・慶應義塾大学)

生命において高分子濃度は非常に重要なパラメータである。

 我々は生細胞を限りなく模倣した人工細胞の創成に挑戦する過程で、細胞並みに濃厚な高分子濃度を持つ抽出液を試験管内で再現すると①転写・翻訳系が著しく阻害されること、②物質の拡散が著しく抑制されることを発見した。また、③乾燥による水分の高分子濃度を変化は、希薄溶液の転写翻訳を引き起こすトリガーとなりうること、④リン脂質二重膜小胞の内部と外部浸透圧の初期状態を制御することで内部の高分子濃度を制御可能であることを見出している。

 生命の起源議論において、環境中に存在する少ない生体分子が効率良く機能するために多様な高分子が高い濃度で「混雑状態」として存在した、との見方が優勢であったが、①と②の結果より、少なくとも現在の生物において高分子混雑は負の側面が強いことが示された。しかし、ハビタブル・トリニティ仮説を考慮すると、はじめ薄い濃度で生命が誕生し、その後に濃くなるというシナリオの妥当性生まれる。トリニティにおける海と陸の界面(浜辺)では、乾燥が生じやすく、乾燥やそれに付随した高浸透圧条件が生じたはずである。この条件では、③と④の結果より自然と高分子濃度は上昇する。

 高くても低くてもシステムに障害が発生する生命が、希薄系からどのような高分子濃度シナリオのもとで誕生し、現在の生命へと至ったのか。この問いに対して、上記の①-④を拡張し、冥王代に起こり得た生命誕生への高分子濃度シナリオを追求することが本研究の目的である。